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【 映画雑感 】No.451

SKIN/スキン


2018年  アメリカ  118分

監督
ガイ・ナティーヴ

出演
ジェイミー・ベル
ダニエル・マクドナルド
ビル・キャンプ
ヴェラ・ファーミガ
マイク・コルター
ダニエル・ヘンシュオール

   Story
 現代アメリカに根深く巣食うネオナチ・ヘイト団体の実情と、レイシストとしての過去と決別しようとする男の壮 絶な苦闘を、実話をもとに描いた社会派ドラマ。

 ブライオン(ジェイミー・ベル)は白人至上主義グループを主催するフレッド(ビル・キャンプ)とシャリーン(ヴェラ・ファーミガ)に実子同様に育てられた。
 顔や体には差別的なメッセージを込めたタトゥーが無数に刻まれている。

 しかし、3人の娘を育てるシングルマザーのジュリー(ダニエル・マクドナルド)と出会ったことで、彼の中に変化が生まれる。
 これまでの生き方に迷いを感じ始めたブライオンは、ジュリーと新たな生活を始めようと決意するが・・・。

 グループを抜けようとするブライオンのあがきだけでなく、それを許さない組織の秩序や維持を目的としたレイシスト団体の歪んだ内情にも焦点を当て、 サスペンスを高めている。


   Review
 併映の『SKIN 短編』が初めに上映されることもあって、ついついその印象を引きずってしまうけれど、両作はつながっているわけではなく、 異なるアプローチでレイシズムの現実に迫っている。

 タトゥーによって肌を黒く染められたレイシストが、人種差別とはどういうことかを身を以て思い知る『短編』に対して、 本作は同じくレイシストだけれど、タトゥーを除去することで新しい人生を築こうと苦闘する男の話だ。
 男に大きな影響を与える女性が美人とはいいがたい太った女性であることが、かえってストーリーにリアリティをもたらしている。

 主人公ブライオン・ワイドナーを演じるのはジェイミー・ベル。
 あの『リトル・ダンサー』(00) や『ディファイアンス』(08) の彼とすぐには信じがたいほどの変貌ぶりだ。

 鎧をまとったような逞しい肉体、スキンヘッド、そして顔面や全身に入れられた無数のタトゥー、獣のような猛々しい目、 ・・・それらから発せられるは彼の内面に渦巻く憎悪や怒りだ。

 母を亡くし、実父のDVを逃れて路上生活をしている時に白人至上主義者のフレッド・クレーガー、シャリーン夫婦に拾われたブライオンは、 彼らによって刷り込まれたレイシズムに何の疑問もなく生きてきた。

 ネオナチとしての憎悪と暴力の日々。・・・けれども彼の本質はじつは違っていたのだと思う。
 それを感じさせる興味深いシーンがある。ガールフレンドに執拗にセックスを誘われたブライオンは、「そういう気になれない。疲れている」と断るのだ。

 冷たくあしらった、というので組織の仲間、レイヤー(ダニエル・ヘンシュオール)から嫌がらせを受けるけれど、 ブライオンが疲れていたのは、憎悪と怒りを保持し続けるという、そのことだったのではないだろうか。
 自分では気づいていなくても、穏やかに暮らしたい、という平凡な欲求が彼の中に芽生え始めていたのだと思う。

 それが3人の娘を育てるシングルマザーのジュリーに出遭った時、ひと目で惹かれた理由だったのかもしれない。

 ジュリーはタトゥーだらけの見ただけで剣呑なブライオンとすぐ関係を持ってしまう、決して慎重とはいえない女性だけれど、3人の娘を守る、という強い覚悟だけは本物だ。

 最近日本ではシングルマザーが幼い子供をネグレクト死させる痛ましい事件が相次いでいるだけに、ジュリーの時にヒステリックなまでの保護本能に共感すら湧いてくる。

 その (ブライオンが馴れ親しんできた “憎悪” ではなく、“愛” の) 強さが、時に激しくぶつかり、喧嘩別れのもとになっても、ブライオンを引きつけたのだと思う。

 ジュリーと結婚したブライオンがまっとうな人生を歩もうとした時の組織の動きがなんともいえず怖い。

 深夜、寝ていたブライオンは突然起こされ、モスクの襲撃を命じられる。 そして隠れていた不法移民をブライオンがこっそり逃がすと、組織の主催者フレッドは彼らを捕らえ、銃でとどめを刺すようブライオンに命じるのだ。
 それを拒否したブライオンはリンチを受けて火傷を負わされる。

 さらに新天地を求めて引越したブライオンとジュリーの居場所を見つけ出し、大挙して押しかけると居間に居座る不気味さ。 フレッドの妻・シャリーンの、子供たちの身に及ぶ危険を忠告するやさしげな脅し。そして見せしめのように木に吊るされた愛犬ボスの遺体。


 アメリカには白人至上主義者たちのレイシズム団体が1000以上存在するという。こうした団体を抜けることがいかに恐ろしく難しいことかが骨身に沁みて分かる。

 それだけに、ブライオンが反ヘイト活動家ダリル(マイク・コルター)の力を借り、 さらに匿名の老女性篤志家の援助で、計26回、16ケ月に及ぶタトゥー除去手術に挑み、ジュリーのもとに帰ってくるラストは感動的だ。

 大仰に泣いたり抱き合ったりせず戸口でじっと見つめ合う2人、ジュリーに抱かれたブライオンとの間に生まれた赤ちゃんの無心な目、 ・・・“絶望” の物語の最後に印象深く刻まれた “希望” に胸が迫った。
  【◎△×】7

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